結論から言うと、人気スタッフの突然の退職を防ぐ一番の手立ては、オーナーやマネージャーが、本人の目標を握っておくことです。具体的には、次の3つです。
- インストラクターになったきっかけを聞き、1年後の姿を共有しておく
- 月に1回は面談をして、目標に向かえているかを一緒に確かめる
- 任せる役割と報酬を結びつけ、責任と成長の道筋をはっきりさせる
この店で働き続けた先に、自分がどうなっていけるのか。そのイメージが湧かないとき、人は迷い、やがて辞めるという選択をします。特に、指名客を多く抱える人気スタッフ(この記事では「エース」と呼びます)が辞めると、店の売上は大きく揺らぎます。実際に私が見た事例は「人気インストラクターが辞めたら売上はどうなる?」で紹介しています。
なぜ目標がないと、スタッフは迷うのか?
目標が見えないまま働いていると、不満がたまっていきます。会社を悪く言いたいわけではなくても、抱えた不満を吐き出す場所が必要になり、それは一番長い時間を過ごす場所、つまりお客様とのセッションに表れます。
これはスタッフ個人の問題ではありません。働き続ける目標を描ける環境を用意できているかという、店側の課題です。
目標づくりは「インストラクターになったきっかけ」から始める
インストラクターになった人には、必ずそうなろうと思ったきっかけがあります。目標づくりは、まずそこを聞くことから始めます。
ピラティスのインストラクターでよく聞くのは、「デスクワークで身体の調子が悪くなり、そのときに出会ったピラティスで身体がスッキリした」という話です。ここには、本人の大切な思いが隠れています。デスクワークだけでなく、身体を動かす仕事がしたい。健康に携わる仕事がしたい。そうした思いを持つ人が多いのです。
そのきっかけを聞いたうえで、どんなインストラクターになりたいのかを一緒に考えます。
- 自分と同じ悩みを持つ人を救いたい
- ピラティスそのものにはまったので、もっと深く学びたい
どちらの方向でも構いません。後者なら、どのように学びを深めていくかまで話します。
きっかけは、面接の段階でつかんでおく
このきっかけは、面接の段階で聞いておくことができます。大事なのは、聞いた内容を面接した人だけが知っている状態にせず、店長やマネージャーにもきちんと共有しておくことです。
1年後の姿を共有しておくと、行き詰まりを越えられる
きっかけを聞いたら、「1年後には、こうなっていたらいいですよね」と、少なくとも1年先の姿を共有しておきます。これをしておいたスタッフは、やはり伸びます。
というのも、試験に合格して勤務を始めても、最初からうまくいくことはほとんどないからです。たとえば、自分が経験したことのない悩みを持つお客様の担当になると、うまく共感できません。お客様も戸惑い、「この人に任せよう」とは思ってもらえません。経験とノウハウが溜まるまでは、どうしても大変な時期があります。
そんな行き詰まったときに、「これも1年後の自分に向かう途中の成長だ」と思えるかどうか。それを支えるのが、最初に聞いたきっかけと、共有した1年後の姿です。
スタッフの成長は、何で測ればいいのか?
私は、パーソナルジムやピラティスのように一対一で向き合う業態では、スタッフの成長を次の数字で見るのがよいと考えています。
- 今、何人のお客様を担当しているか
- 最大で何人のお客様を担当できるか
- いつまでに、何人のお客様を担当できるようになるか
- 指名率:「この人のセッションを受けたい」と選ばれている割合
お客様を担当し続けられるということは、「私はあなたのここを変えられます」と言えるということです。これはスタッフにとっての営業力そのものです。そして、その力を他のスタッフにも広げられるかが、次の段階の成長になります。
担当顧客数の目標は、どう立てるか?
シフトの入り方は人によって違うので、成長のペースも人それぞれです。それでも、たとえば「30人を担当できるようになりたい」というゴールを置いたなら、何ヶ月目までにそこに届きたいのかを考えることが基本になります。1ヶ月で5人、2ヶ月で10人というように、ざっくりでいいので段階的な目標を置きます。
ここで大事なのは、お客様からの予約を待つだけにしないことです。
集客がうまくいっている店ほど、何もしなくても予約が入ってきます。すると、スタッフは「やった感」を得られてしまいますが、実はまったく成長していない、ということが起こります。
そこで、「自分から能動的に、今月は何人を獲得するか」を決めてもらいます。1人でも2人でも構いません。大事なのは数の大きさではなく、やるか、やらないかです。自分で獲得すると決めて動いている人は、確実に伸びます。
面談は、どのくらいの頻度でやればいいか?
基本は月に1回、面と向かって目標を話す時間を取ります。
人の生活には、交通事故のように突然のことが起こります。いきなりストレスを抱えることもあります。そんなとき、「この日に話せる」という決まった場があるだけで、人はずいぶん救われます。
ただし、店の状態によって頻度は変えます。オープンしたばかりの時期や立ち上げ期のように、スタッフに大きな負荷がかかる時期は、週に1回少し話す時間を取るのがおすすめです。店がどの段階にあり、スタッフにどれだけのストレスがかかっているかを客観的に見て、頻度を決めてください。
面談では、本人の目標がどのくらい具体的かに合わせて、関わり方を変えます。
| 本人の目標の状態 | 関わり方 |
|---|---|
| まだ抽象的 | 1ヶ月で少しでも具体的になったことを、しっかり認める |
| すでに具体的 | その目標に向けて伴走する |
| 給料のために頑張っている | いくら稼いで、将来何をしたいのかまで聞く |
不満が出たとき、どう向き合うか?
面談で不満が出てくることもあります。多いのは、店への不満と、自分がうまくいっていないことへの不満です。
まず大事なのは、本人が本当にうまくいっているのかを、客観的に判断することです。そのうえで、不満の裏にある感情がどちらなのかを見極めます。
| 本人の状態 | 裏にある感情 | 向き合い方 |
|---|---|---|
| 本人なりに頑張っている | 認めてほしい気持ち(承認欲求) | うまくいっている部分はしっかり認める。ただし、まだ足りない部分は「このレベルでは認められない」ときちんと評価して伝える |
| 不満を口にしている | 自分は悪くないと思いたい気持ち(自己正当化) | 客観的な事実をもとに、成長につながる言葉を選んで伝える |
この2つは、誰にでも無意識に働く感情です。そして、仕事の成長を妨げるのも、この2つです。
人は、評価というアウトプットを受け取って、はじめて成長していきます。どんな不満や承認欲求があったとしても、相手を成長させるために、どんな言葉を使うかが問われます。
これはマネージャーの力量によるところが大きい部分です。ただ、生まれつきの才能ではありません。研修や、「普段どんなフィードバックをしていますか」という振り返りを通じて、改善していくことができます。
目標を、評価や報酬にどうつなげるか?
目標を握ったら、それを評価や報酬につなげます。ポイントは、役割ごとに細かく報酬を設定し、責任をはっきりさせることです。
- 店長を担ってくれたら、その分の報酬を渡す
- 店舗の管理を担ってくれたら、その分の報酬を渡す
- 業務委託のスタッフにも、「この業務をしてくれたらいくら」「全体のマネジメントを担ってくれたらいくら」と設定する
責任の所在がはっきりしない組織は、一番厄介です。誰に何を聞いても分からない、という状態になってしまいます。店全体のことを考えながらも、役割は細かく決めておくことが大切です(業務の担当の決め方は「スタッフが増えると「誰かがやるだろう」が生まれる」で、業務委託スタッフとの向き合い方は「業務委託のインストラクターをどう管理するか」で解説しています)。
評価制度は、利益とセットで考える
役割を細かく分けるほど、管理は大変になります。どこまでやるかは、店のリソースと相談になります。
そこで、いきなり評価制度をつくるところから入るのではなく、利益が出たタイミングで、新しい役職を評価に加えるという順番で考えるのがおすすめです。どのタイミングで、どの評価、給与、役職にインセンティブを払うのか。それは、事業計画や、出た利益をどこに回すかという話と切り離せません。店の成長段階に合わせて、少しずつ広げていけば十分です。
特にエースとは、必ず目標を握っておく
すべてのスタッフに大切なことですが、特にエースとは必ず目標を握っておいてください。店舗を増やす時期は、オーナーやマネージャーとエースの距離が開きやすく、深い話ができなくなりがちです。そうした時期ほど、意識して時間を取る必要があります。
とはいえ、オーナーが本音を聞くのは簡単ではない
ここまで書いてきたことは、頭では分かっていても、実際にはなかなかできないものです。
オーナーにとって、エースと過ごす時間は楽しいものであってほしいはずです。一方で、本音を聞けば、現場の不満や、自分が作ってきた仕組みの課題を突きつけられることになります。忙しい中で、そうした話に向き合う余裕がないこともあるでしょう。
そして、スタッフの側にも、オーナーには直接言えない本音があります。
社内の人には話せないことも、外部の人になら話せることがあります。私は、オーナーとスタッフの間に入り、双方の話を聞いて、店として次に何をすべきかを一緒に考える役割を担っています。
エースの本音、聞けていますか
「最近、エースと深い話ができていない」「本音を聞きたいけれど、自分からは聞きにくい」。そう感じている方は、まず30分、店の状況を聞かせてください。売り込みはしません。オーナーとスタッフの間に入って話を聞く「現場ヒアリング」が合うかどうかも含めて、一緒に整理します。
まずは自分の店の状態を確かめたいという方には、エースへの依存度や、今すぐ手を打つべき状態かどうかを確認できるチェックリスト「待っていい不調・手を打つべき不調の見分け方」を、LINEでお届けしています。
まず30分、迷っていることを聞かせてください。
初回面談は無料です。オンライン(Zoom)のほか、東京都内なら店舗・事務所にもお伺いします。売り込みはしません。
初回面談の内容を詳しく見る →